【艦これ】吹雪「吹雪と吹雪」

27pt   2018-06-13 18:05
SSマンション-SSのまとめブログ-

1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/25(水) 17:05:02.06 ID:i+LYJHVb0

艦これです。地の文ありです。私とあなた何が違うのっていう昼ドラ的なお話です。若干シリアスよりです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1508918701

2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/25(水) 17:07:07.35 ID:i+LYJHVb0

一応書き溜めがあるますが、投下し終えると更新が遅くなるので一応過去のss達です。よかったらどうぞ。

鳳翔「大断捨離」

那珂ちゃんは申したい!

五航戦瑞鶴の暗躍

【艦これ】深海の濃淡は僕と同じ

【艦これ】大井さんの女子力事情

地の文なし。長門さんで遊ぶ。不定期投稿
【艦これ】薬が飲めない長門さん

【艦これ】長門さんはカレーは飲み物派

 

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/25(水) 17:08:30.27 ID:i+LYJHVb0

夕立「私、演習遠征嫌い」

夕立ちゃんはぽつりと呟いた。そして肩肘をついて、窓を流れる街角の風景をぼんやりと眺めている。

改ニになった夕立ちゃんは、どこか大人びて見える。中身はそんなに変わらないのに、そのよく知っていた横顔は、とうの昔に過ぎ去って、何かを悟った、そんな顔つきになってしまった。

私は取り残されたみたいでなんだか悲しい。

吹雪「どうして?鎮守府から出られる機会なんて滅多にないのに」

鎮守府から出られる機会は滅多にない。ほとんどの時間を私たちは鎮守府で過ごし、月に一度か二度ある訓練も出撃もない日に、外出する。

それ以外は、この演習遠征で知らない鎮守府にいく時だけ。

夕立ちゃんは私に目もくれないでこう言った。

夕立「私がどれだけ恵まれてるのか知っちゃうんだもん」

 

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/25(水) 17:09:14.80 ID:i+LYJHVb0

摩耶「おい吹雪!チョコいるか?」

私のすぐ後ろから摩耶さんと声が聞こえると、口元にチョコレートを押し付けられた。押し付けられた状態で上を向くと、摩耶さんと目が合い、にっと笑った。

吹雪「い、いただきます」

摩耶「ほれ、夕立。お前も食っとけ」

夕立「いただきます」

夕立ちゃんは摩耶さんからチョコを受け取る。その時見えた夕立ちゃんの赤い目は、ほんの少しだけ涙を含んでいた。なぜだかは、私は知らない。

摩耶「なんだぁ、今日の夕立は妙に辛気臭いなぁ。いつもの元気はどこったんだよ」

夕立「たまにはそんな日があってもいいじゃないですか」

摩耶さんはチョコレートの板を口で割り、そのまま食べだすと、夕立ちゃんをじっと見つめた。

そして特に表情を変えるわけもなく、まぁいいかと言う。

吹雪「摩耶さんは楽しそうですね」

 

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/25(水) 17:10:30.84 ID:i+LYJHVb0

摩耶「あったりめーだろ!てか私以外もみんなそんな感じだぞ?よく見てみろ」

そう言われて私はシートベルトを外し、マイクロバスの車内を見渡す。

不眠症の川内さんは耳栓とアイマスクをつけ眠っている。その隣で夕立ちゃんと同じ様に外の景色をみている神通さんが目に映る。

後ろを見た。一番奥の後部座席では榛名さんを除く三姉妹がポッキーゲームをして盛り上がっていた。

赤城さんはいつもどおり黙々と何かを食べている。

榛名さんはというと、一番前の席で提督と楽しそうにお喋りをしていた。

結構盛り上がっていたみたいだった。

私は座席に座りなおし、シートベルトを締める。

瑞鶴「さっきから吹雪静かじゃない。体調悪いの?」

前の席から瑞鶴さんが顔を出し、心配そうにこっちを見た。

 

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/25(水) 17:11:06.06 ID:i+LYJHVb0

瑞鶴「慣れないバスで酔った?」

吹雪「いえ!全然大丈夫です!」

瑞鶴さんの隣からもう一つ顔が現れ、私を無表情で見つめた。でもほんの少しだけ、瑞鶴さんと同じ様に心配そうにしているのがわかった。

加賀「酔い止め、あるから飲みなさい吹雪」

背もたれから腕を出す。その手には猫の顔があるポーチがあって、加賀さんは中を確認しながら取り出した白い錠剤を二つ私に渡した。

瑞鶴「さっすが加賀えもん!ほんとよく持ってるわね、そういうの」

加賀「備えあれば憂いなしです。あとロキソニン、胃痛薬もあるから痛くなったら言いなさい」

そう言って無表情で親指を立てる。笑っていいのかな

 

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/25(水) 17:12:35.65 ID:i+LYJHVb0

瑞鶴「吹雪飲み物ないわね。私の緑茶あげるから飲みなさい」

ペットボトルの緑茶を渡される。

加賀「緑茶はカフェインとタンニンが含まれているから飲み合わせが悪いわ。私の水を飲みなさい」

ペットボトルの水を渡される。

摩耶「んだよ、ジジイ臭えな。吹雪は大人だからな、コーヒーで飲むんだよ」

缶コーヒーを渡された。

それを見た加賀さんはため息をつき、眉間を抑える。

加賀「摩耶。あなた私の説明聞いてたのかしら?カフェインは厳禁…」

摩耶「そんなもん大して変わらねぇよ。あんま神経質すぎると、返って体に悪いぜ?」

瑞鶴「てか加賀さん吹雪にいいとこ見せようと必死すぎじゃない?なーんか癪なんだけど」

加賀「事実だから仕方ないじゃない」

吹雪「そもそも私飲むなんて言ってないんですけど….」

神通「吹雪さん、飲んでおきなさい」

いびきをかいて眠っている川内さんの奥から神通さんが顔を出してそう言った。うるさくてたまらない。そんな風に見えた。さっさと飲まして静かにしたいんだろう。

神通「あなた酔いやすいんだから。初めて海に出た時、ろくに滑れないからすぐ酔って吐いていたじゃないですか。バスも同じことです。酔わないうちに、飲んでおきなさい」

 

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/25(水) 17:13:51.33 ID:i+LYJHVb0

それもそうだ。私は初めて海に立った時、まともに立てず、しまいには一歩も歩くことができなかった。おまけに揺れ続ける海の上で吐いた。

大人しく私は酔い止め飲むことにする。口に錠剤を入れ、渡された三つの飲み物を太ももの上に置き、どれで飲むか考える。妙に視線を感じるのは我慢して。

瑞鶴「その薬って食後?食前?」

瑞鶴さんがふと呟いた。

加賀「大抵の薬は食後ね」

瑞鶴「吹雪、さっきから何にも食べてないよね」

摩耶「チョコしか食ってないな」

加賀「摩耶」

摩耶「がってん!」

後ろでがさごそと物を漁る音が鳴り響き、少し収まってからすぐに、目の前にたくさんのお菓子が現れた。チョコやポテチ、飴にガムになんでも揃っている。

加賀「さあ、錠剤を吐き出して。まずはどれでもいいから食べなさい」

吹雪「もう飲みたいんですけど…」

瑞鶴「にしてもよくこんなにお菓子持ってるわね摩耶」

摩耶「休日のドン・キホーテは私の縄張りだからな!」

加賀「ガムとチョコはダメよ。体に悪いから」

口に色々と突っ込まれる。そして瑞鶴さんも面白そうに袋を開けると私の口に突っ込んでいく。

 

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/25(水) 17:14:45.80 ID:i+LYJHVb0

金剛「Hey!!摩耶!duet time!!are you ok!?」

バス全体に金剛さんのテンションの高い声が響いた。それと共に歓声が上がり、大きな拍手の音も響く。

摩耶「おーけーい!!」

天井にあるテレビに映像が映し出され、大音量で音楽が流れ始めると、カラオケ大会が始まった。音楽が古い、私でも知ってる軍歌だ。

神通「まったく、うるさい人たちですねもう…」

相変わらず眠っている川内さんの隣で神通さんは呆れ顔をして、眠り始めた。

加賀「次は赤城さん、一緒に歌いましょうか」

ふと私は思い出す。こういう時一番楽しんで、盛り上げてくれる夕立ちゃんを。

ずっと静かな隣を見た。さっきと変わらず、夕立ちゃんは憂鬱そうな顔をして、外の景色を眺めていた。

それからずっと。目的の鎮守府につくまで、ずっとだった。

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13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/27(金) 18:19:02.96 ID:t7Ac5PzT0

冷たい潮風。11月の風は夏場の涼しいと感じる風なんかじゃなくて、身に染みる、どこか痛さを感じる。

私達は目的の鎮守府に到着すると、すぐに大広間に移された。ここを共同に使って寝てほしいっていっていた。

その後司令官から明日から演習を始めると説明を受け、演習でやってきた艦娘と証明するカードを渡された。

肌身離さず持つようにと司令官は釘を刺したので、私はそれをポケットにしまう。

そして榛名さんと司令官はすぐに他の偉い人たちに挨拶回りをしに出ていった。

そしてみんな思い思いのことを始めた。枕投げを始めた人もいれば、相変わらず寝る人。

甘いものが苦手な事を隠し、無理して食べたせいで、気分を悪くしてトイレに駆け込む人。

私は少し酔ったから外の風をあたりに行こうと思い、今日一日中ずっと静かだった夕立ちゃんを誘った。

けど布団に伸びたまま手を振り、断られた。仕方ないから一人で回ることにした。

それにしても寒い。北海道の留萌ってところにある私達の鎮守府だけど、オホーツク海から流れてくる風の冷たさは、一段と違う。

 

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/27(金) 18:19:55.34 ID:t7Ac5PzT0

私は手に白い息を吹きかけながら散策する。海岸沿いを歩き回り、防波堤へ。

そして戻っては色んな施設を見て回る。でもどれもこれも似たような建物ばっかりでつまらない。それに中に入れるわけじゃないから、なおさらつまらない。

そうこうしてフラフラと歩き回ると、私は人影を見つけた。たくさんいる、五人だ。少し近づいて、その人影が誰なのかを確認する。

加賀さんがいた。その後ろには北上さんと大井さん。そして疲れて苦しそうにしている朝潮ちゃん。あともう一人は、倒れ込んでいるからわからない。青色のセーラ服を着ているのを見ると、私と同じ吹雪型の駆逐艦なんだろう。

私は挨拶をしようと思って近づいた。

吹雪「あの、こんにちわ。出撃から帰ってきたんですか?」

それを聞いて吹雪型の人以外、みんな私の方を見た。

目が合った瞬間、私は背筋がぞっとした。何でかはわからない。

でも、嫌な汗が背中にまとわりついて離れない。まるで幽霊を見たみたいだ。そう感じた。

加賀「….あなた所属は?任務時間外は外出禁止なのは知っていますね」

そう言いながら私に詰め寄る。私の知っている加賀さんとは違う。

そりゃそうだ。この加賀さんは、私がよく知る加賀さんじゃない。見た目は全部おんなじなのに、まったくの他人。

鎮守府を出発する時、私は神通さんにこう注意された。

いくらよく知った艦娘がいても、中身はまったくの別物と考えなさい、と。

 

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/27(金) 18:20:34.94 ID:t7Ac5PzT0

その意味が今はっきりわかった気がした。この加賀さんは、私の知ってる無表情で変なことをする優しい加賀さんなんかじゃない。

こうして近寄ってくるだけで寒気がして、息苦しくなる。怖くて目も合わせられない。

私は急いでこの鎮守府の艦娘じゃないことを伝える。

吹雪「あ、えっ、えっと。私は留萌の鎮守府から遠征で来た、吹雪です」

そう言って私は提督に渡されたカードがあることを思い出し、ポケットからそれを取り出して、この加賀さんに見せた。

私の持っていたカードを加賀さんは受けとる。そして。

加賀「疑ってごめんなさい。どうも最近は艦娘の入れ替えが激しくて、誰がうちの艦娘なのかよくわからないの」

相変わらず私はこの加賀さんと目を合わすことができない。加賀さんの手にあるカードだけをずっと見ていた。

吹雪「いえ、こちらこそすみませんでした…。勝手に歩き回って」

加賀「そうですね。別に悪事を働いたわけではないと思いますが、ふらふらと歩き回られるのは、あまりよろしくないですよ。混ざってしまったら、危ない。それにこちらの面目が立ちませんので」

吹雪「すみませんでした…。すぐに部屋に戻ります」

加賀「ええ、そうしてください」

 

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/27(金) 18:22:19.31 ID:t7Ac5PzT0

私はちらっと倒れ込んでいる艦娘を見た。相変わらず顔は見えない。でもそんなことよりも気になったことがある。

ぼろぼろだ。セーラー服は大きく引き裂かれ、髪の毛が焦げた、嫌な匂いがする。それにセーラー服の白い部分には、ところどころ血が滲み斑点模様になっている。呼吸も少し浅い。

吹雪「あの、そこの艦娘の人は….」

私はカードを受け取るとつい質問してしまった。

加賀「あぁこれですか。いえ、お気遣いなく。気にしなくて結構ですよ」

大井「ねぇ、そろそろ休憩入りたいんですけど」

そう苛立った声が聞こえた。その冷ややかな声に私はまたどきりとして、萎縮する。

加賀「…そうですね。では二十分の休息をとります。指名されている艦娘は、各自補給と入渠をすませたのち、ここに集合してください。では吹雪さん。私たちはこれで失礼しますね」

そう言って加賀さん達は立ち去っていった。ここで死にかけた艦娘一人だけを残して。その時、誰一人も見向きしなかったのが、私は気になった。

吹雪「あの、大丈夫ですか….?」

私はすぐに駆け寄って艦娘に触れた。冷たい、全然体温を感じないほど冷え切っている。本当に、今にも死んでしまいそうだ。

いえ、大丈夫です。そう苦しそうに言った艦娘は、その時初めておもてをあげた。

吹雪「えっ….」

私たちは多分二人揃って同じことを口にしたはず。

瓜二つの顔。鏡を見ると必ず現れる、その顔。同じ身長、同じ体重。同じ髪型をした私。

倒れていたのは、吹雪。私だった。

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20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/28(土) 07:48:53.48 ID:GbtdiYky0

吹雪「はい、水買ってきたから飲んで」

吹雪「あ、ありがとうごさいます」

私はこの吹雪さんに肩を貸し、なんとかベンチにたどり着き、水を買いに行った。そしてそれを吹雪さんに渡すと、無理やり喉に流し込みはじめた。

なんだか不思議な気持ちだ。私が目の前にいる。そして話している。

テレビでたまに見る、世にも奇妙な物語を演じているみたいだった、

ひとしきり水を飲み干した吹雪さんはベンチにぐったりとして、大きく深呼吸をした。

吹雪「ねぇあなたは補給しないの?他のみんなはしに行ったよ?」

残りの水を飲み干し、ペットボトルの蓋を閉めた。そして私を見る。

何を考えたのかわからないけど少し間、私と目が合い続けた。そしてこう答えた。

吹雪「私の分は、ないよ」

 

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/28(土) 07:49:33.86 ID:GbtdiYky0

そう言って寂しそうに笑う。乾いた笑い。あの加賀さん達と同じ、幽霊みたいな、表情。

吹雪「どうして?鎮守府に帰ってきたら補給と入渠するのが当たり前じゃないの?」

鎮守府に帰ってきたら当然入渠をして傷を治し、補給をとって艤装に完璧にする。

そうでもしないと、そのまんまの姿で日常生活を送ることになる。

それは不便に決まってる。なにより、いつまでもそのまんまだと、死んでしまう。

当たり前か、そう吹雪さんは小さく呟いた気がした。

吹雪「ねぇ、あなたは他の鎮守府からきたんでしょ?よかったら、その鎮守府の話をしてくれない?」

吹雪「え、う、うん。いいよ」

急に話題を変えられた気がした。でも私はそんなことよりも、この吹雪さんが苦しそうにしているのをどうにか和らげてあげたいと思い、色々と話すことにした。

 

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/28(土) 07:50:40.20 ID:GbtdiYky0

私の鎮守府では、みんな仲良しだ。

私の鎮守府では、よく喧嘩が起こるけどすぐ仲直りする。

私の鎮守府では、みんなが支え合って助けあって戦っている。私の鎮守府では。

色んな話をした。新しい話になるたび、吹雪さんの表情はどんどん明るくなっていく。

だから私も必死になって喋った。私は口下手だから上手く伝わってないのかもしれない。でも、目を輝かせて真剣に聞いて驚き笑う。

そんな吹雪さんを見るかぎり、伝わっていたんだと思う。

でもその時間はすぐに過ぎた。私たちに与えられていた時間はたったの二十分だけだから。

楽しそうに聞いていた吹雪さんは私に時間を聞く。そしてもうすぐ集合時間になるんだと知った。

吹雪「ありがとうございます。おかげで楽しかったです」

 

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/28(土) 07:51:20.15 ID:GbtdiYky0

立ち上がった吹雪さんは私に頭を下げてお礼を言い。それを見た私も立ち上がり。

吹雪「ねぇ、本当にそのまんまで行くの?」

吹雪「はい。でも吹雪さんのおかげで、少しだけ楽になりました」

それじゃ行かないと。吹雪さんはそう言うと歩いていく。

私は思った。このまま行かせちゃいけない。

絶対に、吹雪さんは死んでしまう。そう思うと私の体を無意識に吹雪さんの腕を掴んでいた。

吹雪「….なんですか?」

またその幽霊みたいな顔。まだ生きているのに、死んだような顔。

そんな顔を見たら、何とかしてでも、なんとかしなくちゃいけない。

なにか、なにか手段があるはず。考えろ、考えなくちゃ、吹雪さんは出撃して死んでしまうはず。

 

24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/28(土) 07:52:39.87 ID:GbtdiYky0

吹雪「私、あの加賀さんに頼んで出撃やめさせてもらえるよう頼んでみるよ」

吹雪「無理だよ。あの人はそんな人じゃないから」

そんなわけない。私の知っている加賀さんは厳しいけど、絶対に優しい人だ。

私が困った時、自分の損なんか考えないで力を貸してくれて、私を強くしてくれた人だ。

神通さんは別人と考えろっていったけど、艦娘はみんな同じはず。

たとえ少し違っても、心のどこかには、私の知っているその人がいるはずなんだ。

吹雪「無理なんかじゃない!」

吹雪「無理だって」

吹雪「無理なんかじゃない!絶対!」

吹雪「だから無理だって!!」

吹雪「だってそのまんま出撃したら絶対死んじゃうんだよ!!そんなの、私だったら嫌だ。あなたは私だからわかる。死にたくない、そう思ってる」

吹雪「そんなに言うんだったら!!」

声を荒げて、私の腕を振り放った吹雪さんは一瞬躊躇いを見せたけど、こう言った。

 

25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/28(土) 07:53:29.04 ID:GbtdiYky0

私と入れ替わってよ。と。

入れ替わる。そうだ、その手があった。そうすれば吹雪さんは死なない。

吹雪「一回だけ、私と出撃を入れ替わってよ。そうしたら私は入渠もできるし、補給もできる」

私が吹雪さんの代わりに出撃する。その間に補給と入渠を済まして、また入れ替わる。

そうすれば誰も死なないですむ。私の返事は決まり切っていた。

ポケットに手を突っ込む。そして留萌の鎮守府に所属する艦娘だと証明になるカードを吹雪さんの手に握らせる。

その時吹雪さんは一度抵抗したけど無理矢理握らせる。そしてその体温が少しだけ戻った手をしっかりと包み込んだ私は。

吹雪「いい?絶対に入渠すること、それと補給もしっかりすること。約束だよ」

そう言って私は、吹雪さんの集合時間に向かった。

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30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/29(日) 08:11:22.65 ID:sjUqQf7v0

瑞鶴「おかえり吹雪~。ってなんでそんなにボロボロなの」

笑顔で現れたのは瑞鶴さんだった。初めてみる、笑顔だった。

出撃する前に廊下ですれ違った「瑞鶴」さんはそんな顔をしてなかった。

ここの鎮守府のみんなと同じ、どす黒く淀んだ死んだ瞳をしていた。

そしてすぐに私を心配するよりも先に何か疑ったようだから、私は咄嗟に嘘をつく。

吹雪「あ、えっと。転んで…」

瑞鶴「転んで…?」

眉をひそめて私を見る。あぁダメだ。完全にバレた。

そう私は思ったけど、なぜか瑞鶴さんはすぐにお腹を抱えて笑い転げた。

 

31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/29(日) 08:15:43.85 ID:sjUqQf7v0

瑞鶴「またそんなにボロボロになったの!?毎回毎回何したらそんな風になるのよ!?」

加賀「瑞鶴?どうかしたの?」

奥から加賀さんが現れた。私は無意識に後ずさってしまった。

真っ先浮かんだ、あの加賀さん。私をろくに見ないで、六人いた艦隊の一人が沈んでも、私が死にかけても先に進み続けた。

そのついさっきまでの記憶が鮮明に浮かび上がったからだ。

私を頭からつま先を確認し、ただでさえ怖くてたまらないその無表情にひとつ、私を疑う視線を飛ばした。そしてすぐに瑞鶴さんの方へ向くと。

加賀「瑞鶴?これは一体どういうこと?」

そう聞こえた私は下を向いた。もし、ここでバレたら私はどうなるんだろう。

加賀さんが知らない私が、あの吹雪さんと入れわかったことを知ったら、本気で怒るんだろう。

怒った加賀さんは、一体私をどうするんだろう。そう考えると、私はもう白状した方がいいと思い始めた。

瑞鶴「ま~た転んだんだってさ!もうほんとドジよね!」

 

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/29(日) 08:17:50.21 ID:sjUqQf7v0

そう言って笑いながら加賀さんの背中を叩いた。それを聞いた加賀さんは呆れ顔をして、私に、こんな言葉を使った。

加賀「はぁ…。またですか。まったく、大丈夫ですか?」

吹雪「は、はい?」

私に、そんな言葉を使うんだ、この加賀さんは。

そんなの、一生ないと思ってた。短い一生。一日生きるだけの期間の間に、そんな言葉を掛けてくれる人がいることに、私は驚いた。

加賀「ほら、歩けますか?….そうですね、どうせだったら私がおぶってあげます」

そう言って座り込み、私に背を向けた。

私はこの優しさにまだ甘えることしてしまった。

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33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/29(日) 08:18:52.90 ID:sjUqQf7v0

加賀「敵艦隊発見。数四、戦闘準備」

つらい、苦しい、痛い。

見たことない敵。みんなの動きについていけない。

大井「北上さん左お願い」

北上「はいよー」

加賀「朝潮はそこにいなさい」

朝潮「はい」

おかしい。何がおかしい。

加賀「あなたは、いつも通りよ。朝潮に付き添って、飛んできた弾を受け止めなさい」

私は、何をしている。いや、この人達は一体何を考えているんだろう。

私は加賀さんに命令されたとおり、朝潮ちゃんの元に行く。

この時点で私の艤装はすでにボロボロだ。さっきの吹雪さんと同じように、セーラー服の白には血が滲んでいて、艤装の砲塔はへし折れている。ろくに戦える状態じゃない。

 

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/29(日) 08:20:28.55 ID:sjUqQf7v0

私は気になって朝潮ちゃんを見た。この状況で、どう見たって足がすくんでいる、新人なんだろう朝潮ちゃんは、私をどう見ているのか、気になったからだ。

私を見てはないかった。その瞳は私たちの先にある北上さんと大井さん、加賀さんが織りなしている戦闘を必死に見ていた。私には一切気にかけていない。

私は目線を朝潮ちゃんからすぐ戻す。そして前を見た。

不自然に一本、海上に短い軌跡を描いた何かが、私達の元に向けていたのが見えた。

酸素魚雷だ。何度もみたあの気泡の航跡。魚雷のタンクに注入された圧縮空気の痕跡だ。

深海棲艦が発射する魚雷に似た何かは、不自然なほど、私達が使う酸素魚雷に似ている。そのおかげで、訓練の時には酸素魚雷を使って練習できるのだけど。

いつも通り私の体が無意識に回避運動を取り始めた瞬間、私は朝潮ちゃんは酸素魚雷に気がついているのかどうか、心配になった。

 

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/29(日) 08:21:46.05 ID:sjUqQf7v0

私の右隣にいる朝潮ちゃんは、まだ加賀さん達の動きに集中していて、私の回避運動にすら気がついていなかった。

残された時間が少ない中、私は判断を急ぐ。そもそもここで酸素魚雷を教えたとしても、放射状に発射された四つの魚雷を朝潮ちゃんは回避できるのか。

私にはそれが疑問だった。朝潮ちゃんはどう見たって新米だから。

私は朝潮ちゃんに抱きついて、その場から避難することを選んだ。

一本当たることを覚悟をしたけど、運良く、すんでのところで回避できた。

吹雪「大丈夫?」

何があったのかわからない。朝潮ちゃんはそんな顔をしていたけど、私が魚雷が来てたんだよと教えると。

朝潮「だ、大丈夫です。ありがとうごさいます….」

そう言ってすぐに立ち上がる。そしてまた艦隊の最前線に真剣に見つめ始めた。

 

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/29(日) 08:23:29.55 ID:sjUqQf7v0

この時、私は朝潮ちゃんを勘違いしていたことに気がついた。

朝潮ちゃんは私を見ていないんじゃなくて、見ないふりをしていたんだと思った。

朝潮ちゃんは辛い現実から必死に逃げようとしている。恐いんだ、今の現実を受け入れることが。

受け入れば、今すぐに泣いて叫んでしまいそうな恐怖に、耐えているんだ。

私は加賀さんに鍛えられた。だから普通に出撃して、当たり前のように帰ってこれる自信があったから、吹雪さんと入れ替わった。

確かに見たこともない深海棲艦はたくさん出てくるし、何より強い。

だけど「いつも通り」ならなんとかなるはずだった。みんなで助け合って戦う、いつも通りなら。

でも、ここはおかしい。私は本当にこの艦隊の一員なのか、そうは思えなくなってきた。

私は手のひらに爪を立てて覚悟を決める。何がなんでも生きなくちゃいけない。

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41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/31(火) 00:53:26.45 ID:LwRMUjjB0

加賀「吹雪、痒いところはない?」

吹雪「はい、ないです」

私は今加賀さんに頭を洗ってもらっている。吹雪さんに言われたとおり、入渠をしている最中だ。

ほんの少し、この加賀さんに対する警戒心は無くなった、気がする。

でもまだ頭の中にいるあの加賀さんを思い出すと、どうしても受け入れにくい。

加賀「….吹雪。あなたさっきからどうしてそんなに緊張してるの?」

吹雪「え?そんな風に見えますか…?」

加賀「ええ、肩の筋肉のの硬直がいつもよりあるわ」

加賀さんは私の肩を優しくなぞる。

摩耶「そりゃ、今日お前ずっと吹雪にべったりだから、身の危険を感じてるんだよ」

鏡に映った摩耶さんは、加賀さんの後ろに立つと頭にお湯を思いっきり落とした。

赤城「ええ今日はなんだかべったりですね。たまには、私にもその好意を向けてもいいのに」

コンディショナーを丁寧に塗っている赤城さんは少し意地の悪い表情で加賀さんにそう言った。

加賀「….そんなにべったりしてましたか?」

瑞鶴「そりゃそうよっと。ほら加賀さん髪の毛洗うから少し前かがみ、前かがみ」

ぺちぺちと背中を叩いた音がする。

摩耶「お!なんだかいいなそれ。じゃああたしは瑞鶴の髪の毛洗ってやるよ」

 

42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/31(火) 00:55:43.39 ID:LwRMUjjB0

瑞鶴さんの後ろにイスを置き足でシャンプーを取ろうとして思っ切りずり落ちた。

それを見た瑞鶴さんは少し笑い手に取ったシャンプーを渡す。

瑞鶴「洗うのはいいけど、適当にやらないでよ。長髪は手入れが大変なんだから」

摩耶「わかったよ…。おい金剛!風呂で伸びてるなら私の頭洗えよ」

金剛「自分で洗えばいいじゃないデスか…」

摩耶「お前バカか?瑞鶴の頭洗ってるのにどう洗えってんだよ?」

金剛「Leg」

摩耶「はぁ?エッグ?何馬鹿なこと言ってんだ?」

金剛「おーのー。はぁ…ok~やりますよ~」

おかしな人たちだな、本当に。なんでこんなに楽しそうに生きているんだろう。辛いことが多い現実の中で、こうやって笑えるのはなんでだろう。

ほんとうに、羨ましい。どうしてこの居場所が私じゃなくて、あの吹雪さんなんだろう。

私とあの人、何もかもが同じなのに、どこが一体違うんだろう。

でも吹雪さんが帰ってきたら、この居場所は返さなくちゃいけない。

それが約束だから。約束、だから。

私の脳裏に一瞬だけ最低なことが思いついた。頭を振って忘れようとするけど、どうしても、離れない。そんなこと、考えちゃいけないのに。

加賀「動かないで、洗いにくいですからね」

神通「……」

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43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/31(火) 00:57:21.64 ID:LwRMUjjB0

朝潮ちゃんが震える右手を抑えて深海棲艦に砲を向けている。目にはいっぱいの涙を蓄え、足は竦んで、今にも倒れてしまいそうだ。

砲を向けられた深海棲艦はもう虫の息だ。体を覆う黒々とした皮膚からは、私たちと同じ、赤い中身が見える。

真っ赤に充血したその大きな瞳は、朝潮ちゃんだけをじっと見つめ続けている。まるでここにいるみんなの生き写しを見ているみたいだ。

死にかけた、幽霊みたいな、あの顔。

朝潮「無理です、できません…」

そう言って砲を下ろした。でもすぐにその砲はもう一度深海棲艦に向けられる。加賀さんの手が朝潮ちゃんの手を掴み、無理矢理狙わせたからだ。

加賀「やりなさい朝潮。できないとは、言わせません」

朝潮「もう嫌です!私は何回死にかけの深海棲艦を殺せばいいんですか!!」

何度も何度も。小さく引きつった声のささやきに、私は思わず目を逸らしてしまった。

 

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/31(火) 01:00:10.87 ID:LwRMUjjB0

吐き気がした。すごく気分が悪い。

でも私は、ふと思った。

私は死にかけた深海棲艦を倒していなくても、いつも深海棲艦を倒しているじゃないか。

それとこれ、一体何が違うっていうんだろう。

私は目の前で、大切な友達を一人、深海棲艦に殺された。

一緒に鎮守府に入ったその子はいつも明るくて、私が海の上を走るのに苦戦して、心が折れそうになった時、いつもアドバイスをして、助けてくれた。

今でも覚えている。血だらけで、下半身が無くなったその子は痛い痛い、提督にクソ提督なんて言ったことを謝りたいって、何度も何度も繰り返して、しまいには沈んでしまった、あの最後。

それから、私は誰よりも強くなって、みんなを守るためにもっと強くなって、一体でも多く深海棲艦を倒すんだって、そう決めた。

 

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/31(火) 01:01:50.62 ID:LwRMUjjB0

その憎くてたまらない深海棲艦の最後に、どうして目を背けた。

死にかけの深海棲艦を沈めることに生理的嫌悪があるから、なのかと思うと、私は目を背けることをやめた。

それはあんまりにも卑怯だと思ったからだ。

加賀「なら結構です」

加賀さんは朝潮ちゃんの手から離れた。それに驚いた朝潮ちゃんは加賀さんの方に向く。ほんの少しだけ、光が戻った気がした。

加賀「別に構いませんよ。殺しても殺さなくとも。私には何の関係もありませんから。私はただ、提督の指示でこうしているだけですからね」

でも朝潮、一つだけ忠告しておきます。

そう、顔色一つ変えず言うと、不意に私に視線を向け、ずっと蚊帳の外だった私を見た。つられて朝潮ちゃんも私を見た。

加賀「もし提督の命令を破れば、朝潮もああなってしまうんでしょうね。….提督はあなたに気をかけ、育て上げようとしている。でも選ばれたといえ、驕ってはいけませんよ。あなたの代わりにはいくらでもいるのですから。ただ偶々あなたが選ばれた、それを重々理解してください」

 

46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/31(火) 01:04:17.84 ID:LwRMUjjB0

加賀さんは朝潮ちゃんの肩を優しく叩く。それとは裏腹に朝潮ちゃんは加賀さんに触れられると、思い出したように体が震え始めた。

そしてもう一度深海棲艦の方へ向き直す。一度深く深呼吸をし、深海棲艦を眺めるような顔で砲を向けると、死にかけた深海棲艦を撃ち始めた。

どうやっても逃げられないと、朝潮ちゃんは分かったんだろう。

加賀「まずは、深海棲艦を殺すことに慣れなくては。大丈夫、みんな通ってきた道です。乗り越えれば提督に認められ、幾分か楽になりますよ」

大井「はぁ、ほんとくっだらない。なに深海棲艦に同情してるのよ。撃てばはいお終い。それだけでしょ」

この加賀さんは提督に認められれば楽になるっていった。

でも、何が楽になるんだろう、それがわからない。

私には、心を殺して撃ち終え呆然とした朝潮ちゃんが、可哀想でしかたない。

加賀「終わりましたか。では次にいきましょう。進路変更せず、全艦、前進原速」

天気が変わってきた。空は雲行きを悪くして、今にも降り出しそうだ。

まるでこの艦隊を表しているようで、私は、なんだか、嫌だ。

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50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/31(火) 22:09:48.97 ID:tzQrqPrr0

入渠を終えた私達は浴衣に着替え、大広間に移動した。

移動中、この鎮守府にいる艦娘とは一人もすれ違わなかった。

大広間に移動すると昼食が用意されていた。

料理の名前がわからない私だけど、用意された料理はどれもこれもとても美味しそうだった。

私は席に着き、おぼつかない箸さばきで唯一知っているご飯を食べた。美味しい、これはこんなに温かくて、甘いものだったんだ。

夕立「ねぇ吹雪ちゃん、さっきまでこの鎮守府見て回ってたよね」

机のコップにオレンジジュースっていう黄色い飲み物を注ぎながら、夕立さんは言った。

私が知ってる夕立さんとは違って、どこか大人びて見える。私が知っている夕立さんは、さっき海に沈んでいった、私と同じくらいの小さい人だった。

ありがとうと言って私はオレンジジュースっていうものを飲んだ。甘くて、美味しかった。私の知らない味だった。

吹雪「う、うん。見て回ったよ」

夕立「ふーん….」

そう言って夕立さんもオレンジジュースを飲み、背もたれにもたれて、天井を向いた。そして飲み終えるとこう言った。

夕立「ここの鎮守府って、すごく評判悪いけど、何かわかったっぽい?」

 

51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/31(火) 22:14:40.84 ID:tzQrqPrr0

評判が悪い、か。その通りだよ。さっき夕立さんは海に出てすぐに沈んだ。砲身を深海棲艦に向けることもなく、艦娘として役割を果たす前に、呆気なく沈んだ。それが普通と思ってたけど、どうやら違うみたい。

吹雪「うん。夕立ちゃんの言うとおりだよ」

私は無意識に言葉が強くなって言ってしまったことに気がついた。でもどうしてだろう、言葉は止まらなかった。

吹雪「歩いてたらね、私ここの艦隊にあったんだよ」

夕立「そういえばここの鎮守府の艦娘には誰にもあってないね。それで?どんな雰囲気だった?」

夕立さんはきつね色で、片方が赤い太い棒みたいなのを食べ始めた。

美味しそうだな、次はそれを食べようと思い、私は思い出を探る。

吹雪「ひどい人達だったよ。だって」

夕立「だって?」

私は心の中で私と入れ替わってくれた吹雪さんに謝る。

本当は入れ替わる前に言わなくちゃいけないことだったのに、言えなかった。私にさっさとカードを渡して行ったからだ。

いや違う。言えなかった。言ってしまえば、吹雪さんは私と交代してくれなかったはずだから。だって。

吹雪「ここの鎮守府、「捨て艦」やってるんだよ」

夕立「….やっぱり」

 

52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/31(火) 22:15:58.92 ID:tzQrqPrr0

箸を置いた夕立さんは胡座をかいて、床を見続けた。何を考えているのか知らない。

吹雪「やっぱりってことは、知ってたの?」

夕立「知らなかったけど、評判が悪い鎮守府なんて、大体想像できるよ。それで、捨て艦の子は、誰だった?」

そう言うと夕立は顔だけをあげて私を見た。じっと見つめるその赤い目に、私は見透かされているような気がして、心臓がばくばくした。

吹雪「….ごめん。そこまではわからなかったよ」

私は嘘をつく。知っている。同じ吹雪型一番艦の吹雪だった。

その吹雪は、身も心も凍えきって、倒れ込んでいた。この世界に生まれたことを恨みながら。私はどうしてまだ生きてるんだろうと、自分に何度も問いかけて、次は死ぬんだろうと思っていた。

その時、吹雪さんが現れた。そしてこうして入れ替わり、私は今、こう考えている。

 

53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/10/31(火) 22:17:11.82 ID:tzQrqPrr0

帰ってこなければいいのに。このまま、吹雪さんは沈んで、私がこの鎮守府の吹雪になる。

そうなれたら、私はずっと幸せになれる。最低だってことはわかっている。でも戻りたくない、戻りたくない。

戻れば、私はこの幸せになる機会を失って、もう一度あんな目にあう。そんなのは嫌だ。

この気持ちは、あの吹雪さんだってわかってくれるはず。私とあの人は同じ「吹雪」なんだから。

夕立「そっか….。よかったよ」

吹雪「え、何がよかったの?」

夕立「だってもしその倒れてる艦娘が吹雪ちゃんだったら、吹雪ちゃん優しいから、入れ替わると思ってたから」

まぁいいや。そう言って夕立ちゃんはまた食べ始めた。

私も、何も考えないでこの美味しいものを食べることにした。

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56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/02(木) 22:41:02.65 ID:qSuKHKiS0

吹雪「ねぇ大丈夫?」

私は朝潮ちゃんに話しかけた。この状況が怖くて、ずっと影に隠れて一度も話しかけなかったけど、あんなの儀式みたいなものを見せられたら、心配になって話しかけてしまった。

朝潮「…..」

朝潮ちゃんは反応しなかった。ただ前方を滑る加賀さん達の背中を見ている。

私はそんな朝潮ちゃんを見ると、なおさら話しかけてしまった。

聞こえなかったわけはないと思うけど、近づいて、肩にも触れてもう一度確認する。

吹雪「ねぇあんまり辛かったら私に話してくれても….」

朝潮「やめてください」

肩にかけた私の手を払いのけそう言った。もちろん私を見ないで。

さっきまで朝潮ちゃんは機会があれば私に反応した。反応してくれたけど、今回はさっきまでと全く違う。はっきりと、私を拒絶した。

 

57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/02(木) 22:43:15.34 ID:qSuKHKiS0

朝潮「話しかけないでください」

吹雪「どうして?」

わかってるよ。朝潮ちゃんがどうして私を見ないのか。見ていても、見ないふりをしたのか、

朝潮「どうしてってッ!だってあなたは捨て艦だからよ!」

そう、私は捨て艦の艦娘の子と入れ替わっているんだ。

最初は気がつかなかった。でも、この艦隊に付いて行き、何回か戦闘をして気がついたんだ。

私は、最初からこの艦隊の頭数にも入ってないって。

朝潮ちゃんは立ち止まったけど加賀さん達はそれに気がつかないで、そのまま先に進んでしまった。

私と朝潮ちゃん、やっと二人っきりになった。朝潮ちゃんもそれに気がついたみたいで、ついに我慢していた涙を零してしまった。

 

58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/02(木) 22:45:07.74 ID:qSuKHKiS0

吹雪「知ってるよ、私が捨て艦ってことは」

朝潮「じゃあなんでそんなに平気なのよ!あなた死ぬのよ!?休憩前まではそんな素振り一度も見せなかったくせに、どうしてそんなに余裕があるのよ!?」

吹雪「だって私には帰る場所があるから」

朝潮「….あなたまさか留萌の吹雪さん?もしかして、入れ替わったの?」

信じられないという表情をした。私は頷いた。

朝潮「正気なの!?他の鎮守府の艦娘と入れ替わるなんて….」

吹雪「捨て艦なんて知らなかったからね。それに、あんなにぼろぼろな私を見たら、見て見ぬふりなんてできなかった」

朝潮「あなた….自分どんなことをしたのか、わかってないのね」

自分が何をした。私はただ吹雪さんと入れ替わっただけだ。

そんな私を見透かしたように朝潮ちゃんはこう言った。

朝潮「他の鎮守府の艦娘と入れ替わるっていうのは、どれほどやっちゃいけないことか、あなた知らないのね。これは自分だけの問題じゃないのよ。この問題が明るみになったら、それぞれの司令官の監督責任になるし、なにより沈めたってなると、もっと話が複雑になるのよ?あなたがそれを知っても知らなくても、結果は同じなのよ?」

 

59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/02(木) 22:46:43.68 ID:qSuKHKiS0

私はそこまで考えてなかった。ただ入れ替わって、終わったら、私は自分の居場所に、帰る。

帰る、私は、帰れるのかな。不意に今自分が置かれている現実に寒気がした。

私がもしも捨て艦だったら。あの時、倒れ込んでいた吹雪が、私で、もし入れ替わってもらえたら、なんて考えるだろう。

こんな人を物以下で考える艦隊に戻りたいって、そう考えるのか。

そんなわけない。自分を必要としている所にいる方が、ずっとずっと普通だ。

私、「吹雪」がそう思ったのなら、吹雪さんは同じことを考えているはず。だってわたしだから。

朝潮「さすがにマズイわね…。そうだ、カード。カード、持ってるわよね?」

吹雪さんに渡した、留萌の艦娘と証明できるカードのことを言ってるんだろう。でもそれは。

吹雪「渡しちゃった….」

朝潮「どうして思いつきで、手の込んだ自殺できのかしら、あなたは….」

 

60: 以下、名無しにかわりましてSS
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